第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「だけどおれはドレスローザと同じように、お前も守りたい」
何万人の人が住むドレスローザと、一人の人魚。
「情けねェ話だが、おれには両方を守る力がない。権力もない。だから・・・」
その命の重さを測った時、天秤はドレスローザの方に傾くだろう。
「おれは・・・ドレスローザを諦める」
だけど、その命の大切さを測った時、天秤はクレイオの方に傾く。
全てを守る力がないのなら・・・せめて、失いたくない方だけでも救いたい。
「おれはクレイオを必ず、このマリージョアから逃がす」
そのために自分が犠牲になっても構わない。
むしろ、犠牲になるぐらいでないと、見捨てるドレスローザの人達に申し訳がたたない。
「クレイオ、おれはお前を選ぶよ」
ロシナンテの両目からは涙が零れていた。
さっきはクレイオのせいにしていたが・・・
守ることを放棄せざるを得ない、ドレスローザを想って流していることは明らかだった。
「ロシナンテ・・・どうして・・・?」
「どうしてかって? そんなの決まってるだろう」
クレイオの腕を引いて自分の方に寄せると、その身体を強く抱きしめる。
「───お前が大切だからだよ」
大切だから、たとえ自分のためにしてくれることでも、真珠を生み出して人間の欲望の元になって欲しくない。
「お前が大切で・・・好きだから・・・」
ごめんなさい、父上。
申し訳ありません、リク王。
どちらか一つを捨てなければならないというのなら・・・
おれはドレスローザに背を向けます。
「クレイオ・・・ごめんな。おれがもっとしっかりしていれば、お前に気を使わせずにすんだんだよな」
許してくれ、クレイオ。
少しだけお前に触れる、このおれを。
「誰の手にも届かない、安全な場所に必ず連れて行くから・・・頼む、もう二度と泣く事は考えないでくれ」
泣かないでくれと言った男の両目からは透明な涙。
許しを請っているのか、それとも溢れる気持ちを抑えきれなかったのか。
ロシナンテはクレイオの頬に口付けていた。