第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「思えば・・・父が人間に戻ったのは、ドレスローザに焦がれていたからかもしれない」
ロシナンテは夜空を見上げて目を細めた。
航海術を持たない世間知らずの父は、海に出る事などとてもできなかった。
ノースブルーのちっぽけな島で、天竜人に恨みを持つ人間達に追い回される日々。
それでも父は笑顔でドレスローザの事を息子達に語っていた。
「勘違いしないで欲しい。父は決して、ドレスローザの王に戻ろうなんて思ってはいなかった」
いいかい、ドフィ、ロシー。
ドレスローザは、800年間一度も戦争をしていない。
それはリク家が治めているからなんだ。
私達は“ただの人間”として、平和を愛する美しい国を訪ねよう。
「それで・・・ロシナンテ達は、ドレスローザに行けたの?」
「・・・その夢を叶える前に父と母は死んだ。兄も・・・失踪してしまった」
「・・・・・・・・・」
ロシナンテの手が僅かに震えている。
悲しみか・・・それとも怒りか・・・
クレイオはそっとその手に自分の手を重ね、ロシナンテの言葉を待った。
「クレイオも知っている通り、孤児になったおれはセンゴクさんに拾われて海兵になった。そして・・・」
4年に一度のレヴェリー。
開催年だった3年前、世界会議を行うために、世界政府加盟国の王達が聖地マリージョアで一堂に会した。
ロシナンテはセンゴクの計らいで、リク・ドルド3世の護衛として、ドレスローザまで迎えにいく命を受けていた。
“ロシナンテ大尉であります。リク王様、お迎えに上がりました”
“ああ、ご苦労”
正当な君主の血を引く者が、家来の血を引く者に向かって敬礼をする。
だがロシナンテは決して“ドンキホーテ”の姓を名乗らなかった。
一方、若い海兵の顔をしばらく見つめていたリク王は何を思ったのか、ふと口元を綻ばせた。
“出発までまだ時間がある・・・良ければ、ドレスローザを観光してくるといい”
もしかしたらあの時、リク王はロシナンテの正体に気づいていたのかもしれない。