第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「ドレスローザは至る所に花が咲いていたが、特に目を奪われたのは“ひまわり畑”だった」
太陽を見上げて一斉に咲く花。
その黄色い花弁は、母の髪の色を思い起こさせた。
「あんまり綺麗なもんだから、涙が出ちまってなァ・・・父上が見せたかったのはコレだったのかと思ったら余計に・・・」
当時の気持ちを思い出したのか、ロシナンテの目尻には涙が浮かんでいる。
彼にとってドレスローザ、そしてヒマワリという花がどれほど大切なものか、その表情を見るだけで痛いほど伝わってきた。
「ロシナンテ・・・」
クレイオはロシナンテの涙をふき取るように目尻に手を添えると、優しく微笑んだ。
「私もドレスローザに行ってみたい・・・」
「・・・クレイオ」
「そして、見てみたい・・・貴方が涙を流すほど美しいと思った、ヒマワリの花を」
海底に住む人魚は、地上の花を見た事がない。
だから、ヒマワリがどのような色で、どのような形かも分からない。
それでも、クレイオにとってその花は特別なものとなっていた。
「ああ・・・連れていってやる」
本当に綺麗な景色なんだ。
もし許されるなら、そこに住んでもいいかもしれない。
おれは海兵だからあまり帰れないが、リク王が治めるあの国ならきっと、人魚も迫害される事がないだろう。
「一緒にドレスローザに行って・・・ヒマワリを見ような」
星空の下、二人で顔を見合わせ、互いに微笑みながら約束する。
それはとても優しい時間で、これが永遠に続けばいいと願ってやまない。
「じゃあロシナンテ・・・教えて」
だけど、今はそれが叶わない事をロシナンテもクレイオも知っていた。
「どうしてドレスローザの話を聞かせてくれたの・・・?」
先ほど涙を拭ったはずの、ロシナンテの瞳・・・
「どうして・・・そんなに泣きそうな瞳をしているの・・・?」
クレイオには何も隠す事ができない。
彼女への気持ちを自覚したからだけじゃない。
全てを守れる力が自分にないのなら・・・
───何かを切り捨てるしかない。
覚悟を決めたロシナンテは、悲痛な瞳をしていた。