第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
手元に残った、透明な皮膚の欠片。
柔らかなうなじ。
膨らんだ胸元に垂れる長い髪。
「どうしたの?」
「・・・・・・・・・」
ロシナンテを信頼しきって露わにしている細い肩は、先ほどのように日焼けした皮膚がところどころ剥けてしまっている。
少しつまむだけでポロポロと零れてしまうだろう。
太陽を知らなかった人魚の、日焼けした肌に触れる。
それはまるで、処女雪に足跡をつけるような背徳感をロシナンテに与えた。
同時に、ものすごい興奮が押し寄せる。
「ロシナンテの心臓、ドキドキしている」
太陽の強い光を浴びてもなお、生まれたままの色を守る無垢な皮膚。
その一部を剥ぎ取るという行為が、さらに背徳感を強めさせた。
「き、緊張しちまってるのかな! 痛くさせちまったら悪いッ・・・」
「大丈夫、ぜんぜん痛くない」
純粋な瞳が、顔を赤くしているロシナンテを見上げる。
そして、朝露を含んだ蕾のような唇が笑みの形を作った。
「ロシナンテの優しい手だから、痛くない」
その表情があまりにも無垢すぎて。
ロシナンテの背徳感を逆撫でし、さらに呼び起こしてはいけない感情を呼び起こしてしまう。
「・・・かっ・・・皮は放っておけばいずれ剥ける・・・!」
「そう?」
「ごめん、ちょっと膝の上から降りてもらえるか?」
普段なら何時間乗せていてもどうって事のないクレイオの体重だが、今はダメだ。
クレイオを抱き上げて、そっと隣に座らせる。
だけど人魚の鱗には、石でできた噴水の淵は痛いのだろう。
クレイオは軽く顔を歪めたが、ロシナンテもそれどころではなかった。
「ロシナンテ、顔が赤いよ?」
「何でもない、何でもない!」
顔を覗き込んでくるクレイオから、顔をそらす事だけでも必死。
穢れのない人魚を前にして───
ロシナンテの心と身体は、若い男ならば仕方のない、女への欲望をクレイオに沸き上がらせてしまっていた。