第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「あははは、やめて、くすぐったい!」
「・・・あれ? クレイオ・・・これ・・・」
「え?」
クレイオの鎖骨から肩にかけての皮膚が、わずかながらささくれのようにめくれている事に気づき、くすぐっていたロシナンテの手が止まった。
「なんか皮膚がむけてるぞ?」
「あれ・・・本当だ。私、肩をケガしていないのに」
クレイオも不思議そうにしながら、自分でも触ってみている。
すると、少し触れただけでポロポロと剥がれ落ちた白い皮膚に、驚いたように目を丸くした。
「ああ、そうか。クレイオ、これは“日焼け”だよ」
「ひやけ?」
「赤くなってねェから気が付かなかったが、人魚も人間のように日焼けをするんだなァ」
普段は海底にいる魚人類も、毎日のように太陽の下にいたら日に焼けるのか。
ただ、人間とは違って、赤くなったり黒くなったりと、皮膚の色が変わることはないようだ。
「痛くねェか? ヒリヒリするとか」
「ううん、何にも感じない。でも、皮がめくれているのは気になる」
「じゃあ、おれが取ってやる」
最初はまったくの無意識だった。
クレイオの左肩から浮いた薄い皮膚をつまみ、ゆっくりと剥がしていく。
全体的に白い肌は、皮をむいてもその色を変えず、ただ本当に皮膚の最上部だけが剥がれているだけだ。
「よし、こんなもんか。右の肩も見てやるから、髪をどけてくれるか?」
ロシナンテの言葉に、クレイオが右の肩を出そうと横に流していた髪を掻き上げた時だった。
ドクンッ・・・
長い髪からふわりと甘い香りが漂い、柳のようにしなやかで白い首筋が露わになった瞬間、ロシナンテの心臓が大きく跳ね上がった。