第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「ごめんなさい・・・ロシナンテ」
貴方は今、とても苦しんでいる。
それが痛いほど分かるのに、私には貴方のその苦しみを和らげてあげることができない。
「なんで・・・君が謝る?」
「だって貴方は何度も私のために泣いてくれたというのに・・・」
“君は何一つ悪いことをしていないのに、こうしてマリージョアに連れてこられ、拷問を受け続けてきた”
“人間は己の欲で君を傷つけているというのに、君は争い事や悲劇が繰り返されないように涙を堪えている”
「私は貴方のために泣くことすら許されない」
“おれは恥ずかしい・・・自分の身体に流れる、この血が・・・!”
天竜人の血が流れる貴方は、苦しくなるほど優しい人。
世の中の天竜人達に欠けている、温かい心を持った人。
貴方が苦しんでいるのは、その天竜人の血のせい?
それとも、何か別の───?
「ははは・・・何言ってるんだよ、クレイオ」
「・・・・・・・・・・・・」
「おれは決めたんだ。お前に涙を“流させない”ためにここにいるんだってな」
ロシナンテはクレイオの頭を優しく撫でながら、柔らかい笑みを浮かべながら顔を覗き込んだ。
「おれが任務を解かれるまでは、絶対にお前を泣かせはしない。そして・・・」
───任務を解かれる前に、お前を必ずここから救い出す。
「・・・そして?」
だけど、それは口に出すことができなかった。
果たせないかもしれない約束を交わすわけにはいかない。
「そして、いつもお前を笑わせてやるさ! こうやってな!!」
ロシナンテはごまかすように、クレイオの背中をくすぐって強引に笑わせた。
だが、そんな自分に呆れてしまう。
自分はつくづく、情けない男だと。