第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
“何百年かに一度、その大珠アコヤガイから一匹の人魚が生まれる”
世界最大と言われる真珠貝から生まれたクレイオ。
「おれに心配事・・・? そう見える・・・?」
大珠アコヤガイから“真珠の人魚”が生まれるという伝説、本人もそれを認めているが・・・
犬から人間が誕生する事がないように、貝から魚人類が誕生する事など、まずありえない。
もちろん、人智の及ばない出来事が起こるのを何度も目の当たりにしているから、クレイオの生い立ちを疑うつもりもない。
ただ一つ、ロシナンテが気になっている事。
「・・・・・・・・・」
ロシナンテはクレイオの耳に光る、真珠のイヤリングにそっと触れた。
“さようなら、愛する娘。どうか一つだけ約束して”
母が娘に残したという真珠は、とても優しい輝きを放っている。
クレイオはただの貝だった母親と、意思の疎通ができているようだった。
普通に考えて、そんな事ができるのは・・・
「いや・・・それは考えすぎか・・・」
「ロシナンテ?」
不思議そうに見上げてくる“真珠の人魚”の瞳はどこまでも無垢だ。
こんな無垢な少女にまさか、自分が考えるような“力”が備わっているはずがない。
そうでなくても、彼女には重い運命を背負わざるを得ない力が宿っているというのに。
ロシナンテは口元に笑みを浮かべると、クレイオの頭をヨシヨシと撫でた。
「クレイオは優しい子なんだな。でも大丈夫」
「・・・・・・・・・・・・」
「おれには心配事なんてない。今はクレイオと一緒にいる事の方が大事なんだから」
だが、その言葉こそ・・・
彼が今、クレイオと一緒にいる事と、“別の何か”とを天秤にかけている証拠だった。