第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「クレイオ、外へ出ないか?」
部屋に戻ったロシナンテは、両手を広げながら人魚を外へ誘った。
するとクレイオも嬉しそうに微笑み、ガラスの方へ泳いでくる。
「後ろ頭にタンコブができてる」
「ああ、さっきドジってひっくり返った」
苦笑いで誤魔化しながらハシゴを昇り、水面まで上がってきたクレイオを抱き上げる。
そのロシナンテの後頭部には、かなり派手にタンコブができていた。
「今日はいい天気だぞー。あ、いつもいい天気か」
「ロシナンテ?」
いつも通りに振る舞っているロシナンテだが、その笑顔はどこかぎこちない。
「さーて、今日は何の話をしてやろうか? “うそつきノーランド”の話をするか? それとも、“海の戦士ソラ”の話にしようか!!」
どちらもロシナンテが子どもの頃に大好きだった話だ。
「あ、でもチョイスがどちらも男向けか。弱った、女の子が喜ぶような話は知らねェぞ。おれは海軍育ちだからなァ」
ロシナンテが“うーん”と困った顔をしていると、クレイオがクスクスと笑いながら彼を見上げた。
「じゃあ、ロシナンテが子どもだった頃の話を聞かせて」
「え・・・」
「センゴクも知らない、ロシナンテの子どもの頃を知りたい」
センゴクも知らない・・・
それは、彼と出会う前という事か・・・?
「・・・・・・・・・・・・」
その瞬間、ピリリと走った緊張感に、クレイオの手がピクリと動いた。
「ロシナンテ・・・?」
ロシナンテは今、苦しんでいる。
その理由は分からないけれど、もしかしたら自分のせいかもしれない。
そんな考えが頭をよぎるが、人との会話が上手ではないクレイオには、それをどう訊ねていいのか分からない。
「ロシナンテ・・・一緒に空を見よう」
それで少しでも気が晴れるのなら・・・
「どんな話でもいい・・・ロシナンテと一緒にいられるなら・・・」
クレイオはロシナンテの洋服をギュッと掴み、その厚い胸板に頬を寄せた。