第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
そういえば、クレイオの朝飯もまだ持っていっていない。
腹を空かせているだろうな、とクレイオの部屋の方を見ると、ドアの鍵が開いていた。
「・・・あれ?」
昨日、締め忘れたっけか?
首を傾げていると、中から微かに笑い声が聞こえてきた。
クレイオが一人で笑うはずがない。
誰かいるのだろうか。
だとしたら・・・誰だ?!
いてもたってもいられず、床板の隙間につまづきながら部屋のドアを開けると、そこにいたのはセンゴク。
「遅いぞ、ロシナンテ! 訓練がないからといって、たるんどる!!」
「も、申し訳ありません!」
見れば、センゴクの足元には空になった食器が置いてある。
良かった、クレイオの朝食を運んでくれたらしい。
「ロシナンテ、おはよう」
水槽の中にいるクレイオが、センゴクの肩越しに笑顔を向けてきた。
いつもと変わらないはずなのに、なぜか胸がチクリと痛む。
「おはよう、クレイオ。ごめんな、寝坊しちまって」
「大丈夫。センゴクがご飯を持ってきてくれたし、それに・・・」
何かを思い出し、センゴクと顔を見合わせて笑っている。
マリージョアに来てから、自分以外の人間に笑顔を見せる姿を見たことが無かったせいだろうか・・・
悔しい気持ちが込み上げてきたが、慌ててそれを隠す。
「センゴクさん、泊まったんですね。すいません、何もできなくて・・・」
「いやいや、気にするな。離れとはいえ、この屋敷には余っている部屋がたくさんあるからな。勝手に使わせてもらった!」
笑ってはいるが、きっと“父親”としてロシナンテのことが心配だったのだろう。
ドフラミンゴがドレスローザの王位を奪おうとしている。
それを知ったロシナンテが平常心でいられるわけがない。