第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「本当に・・・笑っておる・・・」
ロシナンテからの報告書で知ってはいたが・・・
実際に目にすると、さすがのセンゴクも驚きで言葉を失う。
驚き・・・いや、違う。
「良かった」
───これは“安堵”だ。
「ロシナンテ・・・やはりお前を任命したのは間違いではなかったようだ」
「センゴクさん・・・」
海軍本部元帥である自分は、世界政府の人間。
本来なら天竜人の要求に従い、クレイオに涙を流させなければならない。
だが、センゴクとて人の子。
「若い娘さんは笑顔でいた方がいい!」
世界が平等であれたら。
か弱き者も安心して暮らせる場所であれたら。
そう願ってやまない事もある。
「どれ、腹芸でもしてみせようか!」
もっと笑わせようとしセンゴクが近寄り過ぎたのか、クレイオは少し驚いたように後ずさりをした。
「センゴクさん! クレイオを怖がらせないでください!!」
「お、悪い悪い・・・つい」
慌ててセンゴクとクレイオの間に割って入ってきたロシナンテは、海兵というよりは“ナイト”の顔をしていた。
クレイオが自分以外の人間に笑顔を見せた事に、どことなく妬いているようにも見える。
「それより、わざわざマリージョアにいらした理由は何です? まさか、クレイオに会うためだけではないでしょう?」
「ああ、そうだそうだ。忘れていた」
センゴクはそれまで緩んでいた表情をキッと引き締めると、丸眼鏡の奥から険しい瞳をロシナンテに向けた。
「場所を変えよう。込み入った話になる」
「・・・?」
センゴクがいつにも増して真剣な表情を見せた途端、その場の空気が一気に変わった。