第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「───泣いてもいいよ」
満月の白い光がクレイオの顔を優しく照らす。
「それでロシナンテが元気になるのなら」
涙を流してもいい。
もともと貴方はそのためにここにいるのだから。
「クレイオ・・・?!」
「私がいつまでも泣かないから、ロシナンテは私の知らない所で天竜人達から酷い事を言われているんでしょ」
人魚が零した涙は、至宝の真珠に変わる。
「私、今なら泣くことができる」
失われた心で涙を流すことはできない。
でも、貴方と出会った今は違う。
「心配しないで、貴方は何もしなくていい」
ただ想像するだけで、この心は深い悲しみで満ちる。
「ロシナンテが遠くに行っちゃうと思うだけで、私はいくらでも真珠を生み出すことができる」
貴方はそれを持って天竜人の所へ行けばいい。
そのせいで争いが生まれ、さらなる欲望に支配されても、ロシナンテがいつものように笑ってくれるならば、私はそれでいい。
「だから・・・遠くへ行かないで。貴方が必要なだけ、涙を流すから」
静寂な空の満月。
確かに見上げているはずなのに、その美しい姿が霞んでしまう。
それは、ガラス細工のように儚い人魚の、溢れるような優しさに・・・
「変なの・・・なんで貴方が泣いているの?」
ロシナンテの瞳から涙が零れ落ちているからだった。
「本当にダメだなァ、おれは」
何で励まされているんだ。
「お前は泣かなくていい、クレイオ。泣かせるようなことは誰にもさせねェから」
「ロシナンテ・・・」
「お前はおれが守る!」
すると、クレイオはクスクスと笑いながらロシナンテの目を拭った。
「じゃあ、ロシナンテも泣かないで。貴方は私が守るから」
地上では貴方が。
海では私が。
お互いを守り合えばいい。
夜空に浮かぶ真珠のような満月。
その光は、想い合う海兵と人魚を銀色に染めていた。