第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
満月は人の心を狂わせる───
センゴクが昔、ロシナンテに言った言葉のひとつだ。
満月の夜は犯罪も多くなる。
だから海兵は気を引き締めていなければいけない、と。
確かに人の心を狂わせるのかもしれない。
「ロシナンテは星の名前をいくつ知っているの?」
「・・・はは、航海に必要なヤツしか知らねェよ」
地上では立つことのできない人魚。
薄いガラスのような鱗に覆われた下半身は、人間と同じように温かく柔らかい。
クレイオを抱えながら外に出れば、頭上には星の降るような夜空。
静かで、穏やかな時間が二人を包み込む。
「航海・・・かァ。私も行ってみたいな、遠くの海へ」
北の海、南の海、東の海、西の海・・・
グランドラインの他にも海はたくさんある。
「お前ならわざわざ船に乗らなくても、うんと遠くへ行けるだろうな」
「ううん、私もロシナンテと一緒に船に乗る」
「なんで? 人魚が泳ぐスピードに比べたら、船は遅ェんだぞ」
「だって」
首を傾げるロシナンテを、クレイオはクスクスと笑いながら見上げた。
「ロシナンテ、泳げないじゃない。船が沈没したら私が助けてあげなきゃ」
「ち、沈没?! 縁起でもねェことを言うなよ!」
「それに貴方はドジだから、何もなくても船から落ちちゃうかもしれない」
「おいおい!」
クレイオはこんなに楽しそうに顔を綻ばせているというのに、その姿を見ているだけで胸が締め付けられる。
締め付けられる・・・?
いや、違う。
締め付けられるだけだったら、まだいい。
「・・・ロシナンテ・・・?」
クレイオの笑顔を見ていると・・・心臓が高鳴ってしまう。
“たまにいますからね。同情を愛情と履き違える馬鹿が”
履き違えているのなら、その方がよっぽどいい。
「満月か・・・」
センゴクさんは正しかった。
満月は人の心を狂わせる───