第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「ロシナンテ中佐」
ある日、夕日が差すダイニングで食事係からクレイオと自分の分の夕食を受け取っていると、執事が中に入ってきた。
天竜人の遊覧に付き添ってしばらくマリージョアを留守にしていたようだが、この男の顔を見ていると相変わらず虫唾が走るようだ。
「クレイオは最近よく笑うと報告を受けていますが、肝心の“泣く”方はどうなっているのですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「なぜ、黙っているのです。まさか、ご自分の任務を忘れたわけじゃないでしょうね?」
「そんなこと、言われなくても分かってますよ」
ああ、海兵という立場でなければこの男の顔面にパンチを見舞ってやったものを・・・
ロシナンテの苛立ちに気づいたのか、執事は小さく舌打ちをした。
「・・・失礼だが、クレイオに余計な感情を持たれているのでは?」
「は?!」
あまりの驚きで、床には何もないのにもう少しで後ろにひっくり返りそうになる。
「たまにいますからね。同情を愛情と履き違える馬鹿が」
「なっ・・・」
「クレイオは“魚”ですよ。それもただの魚じゃない、“金”を生み出す魚なんです」
執事はクレイオのために用意された茹でワカメと焼きハマグリを見て、忌々しそうに溜息を吐いた。
「しかし、金を生み出さない魚には、いつまでもタダで食事を与えるわけにはいかないんですよ。ロシナンテ中佐、それはもちろん貴方にも言えることだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「こちらの要求する働きをしていただけないのなら、センゴクさんに別の海兵を派遣していただくよう連絡をしなければなりません」
「ちょっと待て!」
今、自分がクレイオのそばを離れたら・・・
この悪魔達は彼女を拷問し、傷つけるだろう。