第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
海兵になると志したその日から、ロシナンテの背中には常に「正義」の二文字があった。
それは彼の揺るぎない信念であり、尽くすべき忠義。
自分を海兵として育ててくれたセンゴクのため、そして“人間”として生きることを教えてくれた父のため。
自分の使命は一人の海兵として、一人の人間として、罪なき人々を守ることだと信じている。
ならば・・・
「ロシナンテ、今日もお外へ連れて行って」
向けられた微笑みに、胸がドキリとした。
おれはどうするべきなのだろう。
水槽という牢獄に囚われた、罪なき人魚。
彼女は天竜人の館から見える景色を、地上の世界の全てだと思っている。
「ロシナンテは温かい」
この手の温もりが、地上の世界の全ての優しさだと思っている。
「ロシナンテ、何を考えているの?」
まだ少女の面影すら残す、その顔を見ていると息苦しさすら覚えた。
おれは本当の意味でこの子を守れていないのではないか。
もし涙を流さなければ、天竜人は再び彼女に拷問を与えるだろう。
今はそうならないように目を光らせているが、いつこの任務から解かれるか分からない。
そうなったら彼女を一人ここに残して、自分はマリージョアに戻らなければいけない。
ただの一海兵が、天竜人に逆らえるはずなどないのだから。
「ロシナンテ・・・?」
そうなったら、クレイオをまた孤独にさせてしまう。
「どうして難しい顔をしているの?」
その綺麗な瞳から零れる涙は、世界で最も価値があるとされる宝石。
彼女はその運命を受け入れ、心を閉ざして生きてきた。
争いを生み出さないように・・・
だけど、その心をこじ開けてしまったのは自分だ。
彼女に感情が戻った今、この先の拷問に耐えていくことができるのだろうか。
「おれは・・・」
───分からない・・・
世界政府に殉ずる海兵として、天竜人の命令に従うべきか。
それとも・・・
“お前の信じる正義を貫け、ロシナンテ”
貫くべき自分の正義に・・・従うべきか。
ロシナンテは悩んでいた。