第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「私、海底だろうと、地上だろうと、やっぱりロシナンテのそばがいい」
「へ?」
「だって、ロシナンテはとても温かいから」
クレイオはロシナンテの顔を見上げ、月の光を浴びながら微笑む。
「月の雫が人魚の涙ならば・・・太陽の光は優しい人の温もりなんだと思う」
その温もりで、流れる人魚の涙は止まる。
ここはマリージョア。
世界で一番高い場所。
今、二人は地上でもっとも月に近い所にいる。
「おれが・・・温かい・・・?」
自分はただ、海兵としてクレイオを守ろうとしているだけ。
その“はず”だ。
そう思い込もうとしているのに、クレイオの言葉ひとつひとつが、心の底の泉に一石を投じるかのように波紋を広げていく。
「ロシナンテの笑顔や言葉・・・そして、この腕はとっても温かい」
クレイオの言葉は、驚くほど飾らず真っ直ぐだ。
それは、彼女が“真珠の人魚”として生まれたせいで、成長するまで他の人魚や魚人と触れ合うことが無かったからだろう。
宝石の原石のように、素朴で純粋。
だからこそ、人の心に深く響く。
「ロシナンテに会って初めて、水の外も温かいんだって分かった」
そう言って微笑むこの人魚に、どうして心奪われずにいられよう。
まだあどけなさが残るその顔立ちはとても綺麗で、月の光を宿す瞳はガラスのように儚げだ。
「マリージョアは嫌い。人間も怖い。でも、だからといって、ロシナンテがいない海の底に帰りたいかどうかも分からない」
海の底が温かい場所とは限らないから───
その言葉はとても切なく・・・
「クレイオ・・・」
ロシナンテはクレイオを抱きしめずにはいられなかった。