第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
月を見上げる人魚は、どこか寂しそうだった。
白銀の清らかな光を浴びながら、耳を飾る真珠のイヤリングを揺らしている。
「・・・クレイオは海が恋しいと思うことはないのか?」
ロシナンテがそう聞かずにいられないのも無理はなかった。
マリージョアの頂は本来ならばクレイオが住むべき所ではない。
できることなら同じ種族が住む海の中に帰りたいと思っているはずだ。
しかし、クレイオは首を傾げるだけで頷くことはなかった。
「帰りたいのかどうか・・・分からない」
「何故?」
「だって・・・海には貴方がいないから」
その言葉は、ロシナンテを驚かせるには十分で。
膝の上に乗せていたクレイオもろとも、もう少しで塀から落ちそうになる。
「お、おれ?」
「うん」
なぜロシナンテが驚くのか分からないのか、クレイオは不思議そうに瞬きをしながら顔を赤くしている海兵を見上げる。
「私は太陽も、月も好き。でも海にはそれを見せてくれる人がいない」
ロシナンテは私をこうして外に連れてきて、太陽も、月も、見せてくれる。
「な、なんだ、そういうことか・・・そうだよな!」
もっと深い意味があるのかと勘違いしてしまった自分を恥ずかしく思いながら、少しホッとしたように微笑む。
自分は海兵としてクレイオの世話をするという任務についている。
仕事に私情を持ち込むのはもってのほかだし、何より自分はクレイオよりも6歳も年上だ。
特別な感情を持つ方がおかしい。
「魚人と違って、地上に住む人魚は滅多にいねェもんな・・・海底じゃ太陽や月の光なんて届くわけねェし・・・」
ウーンと考え込んでいるロシナンテを見て、クレイオは口元をほころばせた。