第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「おれは恥ずかしい・・・自分の身体に流れる、この血が・・・!」
「・・・血?」
ロシナンテは幼い頃、奴隷が“当たり前”の環境にいた。
あのまま成長していたら、クレイオの背中の烙印を見ても疑問に思うことすら無かっただろう。
「おれは昔、天竜人だった」
その瞬間、クレイオの瞳が大きく開いた。
ただの海兵とばかり思っていた彼が、世界を創造した“神”の血を引く人間だったのか。
聖人であるとされているがゆえに、傲慢で、無慈悲で、強欲な天竜人───
「6歳の時に天竜人の地位を捨てた父親とともに地上へ移住したんだ。おれはそのことを隠して、今ここにいる」
元・天竜人だというだけで追われる身となり、不衛生な生活を強いられたため、母は病気で亡くなった。
人間として幸せに生きるという理想が儚く散った父は、愛する長男に恨まれ殺された。
そして・・・
天竜人として世間知らずながらも、面倒見が良かった兄は“悪魔”となった。
自分もセンゴクに拾われていなければ、同じように破滅の道を進んでいたかもしれない。
「ごめんな、クレイオ・・・本当にごめん」
このおれの中に流れる血と同じものを持つ、天竜人が君にした仕打ち・・・
どんなに言葉を重ねても、頭を下げても、償うことはできない。
「どうしてロシナンテが謝るの? 貴方は何も悪くない」
「君だってそうじゃねェか! 何も悪くない者が傷つけられているのを見て、自分は“悪くない”からと知らんぷりすることなど、おれにはできない」
「・・・・・・・・・・・・」
「傷つけている人間が天竜人なら、なおさらだ・・・!」
「ロシナンテ・・・」
クレイオには理解ができなかった。
海底で人知れず生まれ、言葉を発することのできない貝に育てられた人魚。
母や、リュウグウ国王夫妻以外の温かさに触れたことがなかった彼女は、目の前でとめどなく零れ落ちる涙の温もりに戸惑っていた。