第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
魚人島に身を隠す。
それは一つの賭けでもあった。
歴史を振り返れば、真珠を求めて人魚を苦しめたのは何も人間だけではない。
魚人や人魚達もまた、欲望に駆られて真珠の人魚を苦しめる存在となった。
「初めてお会いしたネプチューン王は、とても立派な方だった。事情を知ると、王宮に一番近くて安全な場所に住めるよう、手配してくださった」
「リュウグウ王国の王か・・・」
海軍にある資料でしか読んだことがないが、“海神”ネプチューンの名はロシナンテも知っている。
一人の騎士としても名高く、さらに“白ひげ”エドワード・ニューゲートとも交流が深い男だという。
「オトヒメ様は、私が何も言わなくても全てを悟り、優しく手を差し伸べてくださった」
“可哀想に・・・母上と離れ離れになって、とてもつらかったでしょう”
人の心を感じ取る、とても不思議な力を持った王妃様。
身体は弱いけれど、誰からも愛される素晴らしい人だ。
婚礼でオトヒメ王妃の花嫁衣裳を飾った、数百を超える“人魚の涙”。
一つ一つの形は不揃いながらも清らかな美しさと、それを纏う心優しき花嫁の可憐さは、祝福する者全てを魅了した。
しかし、その婚礼こそがクレイオにとって不運の始まりだった。
リュウグウ王国の花嫁が、海の至宝を身につけていたという噂はたちまち広がり、多くの宝石商が魚人島へつめかけた。
ただの伝説だと思われていた“真珠の人魚”が存在していた。
彼女はまさに金の生る木。
「ネプチューン様は真珠を国宝にして、魚人島の外への持ち出しを一切禁じた。もちろん、その真珠が誰からの献上品であるかも隠して」
それでも情報は漏れてしまうもの。
クレイオの前にある日、一人の魚人が現れた。
“お前の母親が死にかけている。早く行かないともう二度と会えなくなるぞ”
それはクレイオをリュウグウ王国から連れ出すための嘘だった。