第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
しかし、不思議そうにしているのはクレイオもまた同じだった。
「ロシナンテは知っているんでしょ? 私が“真珠の人魚”だということを」
「“真珠の人魚”? いったいなんだそれは」
「・・・私のこと、何も聞いていないの・・・?」
「おれはただ、君が天竜人にとって大切な人魚としか・・・」
するとクレイオは眉根を寄せ、俯いた。
「大切な・・・? それは嘘。あの人はただ真珠が欲しいだけ」
大切にされた覚えは一度もない。
魚人島で捕らえられてからずっと、拷問を受け続けていた。
ロシナンテに出会うまで・・・
「クレイオ・・・君はいったい・・・」
人魚の背後では、噴水から噴き出す薄いカーテンのような水が、趣味の悪い天竜人の銅像にかかっている。
ロシナンテは胸に何かがつかえるような感覚を覚えながら、クレイオと彼女に残酷な仕打ちを与え続ける暴君の銅像とを交互に見た。
「教えてくれ・・・君はどうして天竜人に捕まっているんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「おれは君に涙を流させるよう命令されている。それはいったい・・・なぜだ」
クレイオはロシナンテの質問に答えることを躊躇っているようだった。
もしそれを知ってしまったら、どんなに優しい人間でも欲望に目の色を変えてしまうかもしれない。
その不安を悟ったのか、ロシナンテはクレイオの頭を優しく撫でた。
「心配するな。おれはどんな答えを聞いても、君を苦しめるようなことは絶対にしない」
「ロシナンテ・・・」
「それに、おれが力になれることもあるかもしれないだろ!」
「・・・・・・・・・・・・」
もし目の前の笑顔が偽物だったなら・・・
きっと自分はもう、この世界のものを何一つ信じられなくなるだろう。
そう思わせるほどのロシナンテの優しくて誠実な笑顔に、クレイオは誘われるままゆっくりと口を開いていた。