第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
温かな日差しの中、屋敷の自慢でもある噴水の中にクレイオを座らせ、ロシナンテは縁に腰掛けて空を見上げた。
「気持ちがいいなァ」
天竜人はどこかへ出かけているのだろう。
普段は何かと慌ただしい屋敷がひっそりと静まり返っている。
ロシナンテは腰まで水につけているクレイオの方に顔を向け、ニコリと微笑んだ。
「こうして外に出るのも悪くねェだろ?」
「うん」
太陽の下で見る人魚の肌は、水の中にいる時よりも一層透き通って見える。
それはもしかしたら、人間と違って紫外線をほとんど浴びないで生きているからなのかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・」
よく、岩礁の上で歌う人魚に見惚れて船を座礁させてしまう船乗りの話を聞くが、その気持ちが分からないでもないような気がする。
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもない」
ロシナンテは自分がクレイオに見惚れていたことに気が付き、慌てて両手を振った。
自分は海兵だ。
守るべき人を、浮ついた気持ちで見るなんてもってのほか。
慌てたロシナンテの姿が面白かったのか、人魚の口元に笑みが浮かぶ。
すると、少し乾いた長い髪の一部が太陽の光を反射した。
「今、何か光った?」
「え?」
「クレイオの髪・・・耳らへんのところが今、白く光ったような気がしたけど」
「・・・ああ、これ?」
クレイオが髪を耳にかけると、顔をのぞかせたのは小さな真珠の耳飾り。
普段は隠れていて気が付かなかったが、形の良い小粒のパールが上品な光を放っていた。
「これは、私の“お母さん”」
「へェ、母親からもらったのか?」
「ううん、これがお母さんなのよ」
ロシナンテはその言葉の意味が分からず、首を傾げた。
その真珠の耳飾りが母親とは、いったいどういうことなのか。