第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
拭いきれない疑心にクレイオが目を伏せた、その時だった。
「ほーら、外だぞ!!」
バタンと扉が開く音がしたかと思うと、強い光がクレイオの目に飛び込んでくる。
それは水槽から見える窓から差す光とはまったく違う。
目を開けているのがつらいと思うほど眩しいのに、不思議と嫌では無かった。
「眩しいか?」
玄関の外に出たロシナンテは、優しく微笑みながらクレイオの顔を覗き込んだ。
「・・・大丈夫」
「久しぶりの太陽はどうだ?」
久しぶり?
いや、“初めて”だ。
天竜人に捕まったのは魚人島だったし、マリージョアまで運ばれてくる時も嵐だったり、夜だったから、ちゃんと太陽を見たのはこれが初めてだった。
「目を開けられねェか?」
「大丈夫、慣れてきた」
“陽樹イブ”が海底まで届ける光とは比べものにならない閃光。
二人の頭上には真っ青な空が広がり、その中央で堂々と輝く太陽は大きく、力強く、果てしない。
魚人類が憧れてやまない命の源がそこにあった。
「太陽の光は不思議だよなァ」
言葉を失っているクレイオをしっかりと抱きながら、ロシナンテはニコリと笑った。
「同じ光なのに、ランプの光と違ってポカポカと温かい」
人間だろうと魚人類だろうと、誰にでも優しく降り注ぐ、温かな日差し。
───まるで・・・
「ロシナンテ・・・どうしてここまでしてくれるの?」
「ん?」
「これも私に涙を流させるため?」
まるで・・・貴方みたい。
分け隔てなく優しさを与える貴方は、まるでこの日差しのようだ。
すると、ロシナンテはクレイオを抱き直し、零れるような笑みを見せた。
「言っただろ! おれは自分の“正義”に従うって」
「・・・?」
「天竜人が何を望もうと、おれはおれの信じる正義を貫く。それは、君を無理やり泣かせることじゃない」
たとえそのために、海兵としての立場が危うくなっても・・・
いや、世界政府を敵に回そうとも。
「生きていることが楽しい、幸せだと、君に心から思ってもらうためなら・・・おれは何でもする」
それが自分の使命。
「ロシナンテ・・・」
彼の笑顔はとても温かく、まるで太陽のようだった。