第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
しかしその心配をよそに、ロシナンテはひっくり返ることも、クレイオを落っことすこともなく、最後の一段を降りきった。
「不思議そうな顔をしているけど、苦しいかな? 外でも呼吸はできるんだろ?」
「うん、ただびっくりしてる」
「びっくり?」
「だって、何事もなくハシゴを降りたから」
そう言ったクレイオに、今度はロシナンテが不思議そうな顔をする。
「絶対に床に落ちると思ってた。貴方、ドジだから」
「おいおい!」
心外そうにしているが、彼のドジぶりは折り紙付きだ。
出会ってから日は浅いけれど、何度もその姿を目の当たりにしてきた。
クレイオがクスクスと笑っていると、それまで膨れっ面だったロシナンテも顔を綻ばせる。
「いくらおれでも、大切なものは落とさねェよ」
そう言いながら大きな手で頭を撫でる。
それはとても優しくて、温かい手だったのに、クレイオの顔は反対に曇っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
“大切なもの”とは、私のことだろうか。
それとも・・・
私が持つ力のこと───?
「どうした? また浮かない顔をしているな」
「・・・・・・・・・・・・」
「そうか、誰かに見つかるんじゃねェかって心配してるんだろ? 安心しな!」
まったくの見当違いなのだが、ロシナンテはそれに気づく気配もない。
部屋のドアを開けながらクレイオの顔を覗き込んだ。
「おれはお前の世話を一任されているから、屋敷の敷地内から出なければどこへ連れていこうと構わないはずだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「それに、おれのとってきおきの術で、誰にも気づかれないようにすることもできる!」
「そういうことじゃなくて・・・」
貴方も人間。
どんなに優しく見えても、根底は天竜人と変わらない。
私を笑顔にし、心を許させてから、“本当の目的”を果たそうとするんでしょう。