第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
ロシナンテを最初に“太陽のようだ”と感じたのは、やっぱりあの日だろう。
「今日こそ外へ行くぞ!」
「・・・大丈夫?」
先日、クレイオを抱き上げようとして水槽に落ちてしまったロシナンテは、そのままご丁寧にも風邪を引いてしまった。
“感染るといけないから”と三日ほど部屋に引きこもった後、久しぶりに顔を見せた彼はすっかりと元気そうだった。
「ああ、もう大丈夫だ! 心配かけてごめんな」
「心配・・・?」
水槽を見上げながら満面の笑みを浮かべているロシナンテに、その時クレイオは初めて気が付いた。
自分が人間の回復を祈り、彼に会えなくて寂しいと思っていたことを。
「ちょっとお願いがあるんだが、水槽から上がるのは自力でできるか? 上半身だけでも上げてくれたら助かる」
この間は水の中に両腕を入れたのが間違いだった。
水槽から出たクレイオを抱き上げるだけなら海水に浸かることもないし、きっと力が抜けることもないだろう。
「分かった」
クレイオは頷き、水槽の淵に手を付いて身体を押し上げた。
すると待ち構えていたロシナンテの両手に軽々と持ち上げられ、次の瞬間には全身が水の外に出ていた。
「大丈夫か?」
「・・・うん」
尾ヒレから垂れた水滴が、数メートル下の床に落ちる。
そういえば、この水槽から出るのはここに連れて来られてから初めてのことだ。
「これからどうするの?」
「まずはハシゴを降りる。お前を落とさないようにしなきゃな」
「・・・・・・・・・・・・」
おっちょこちょいのロシナンテなら十分にあり得る。
いや、足を踏み外して二人とも転げ落ちるかもしれない。
こうなっては運を天に任せるだけ。
クレイオはロシナンテがハシゴを降りる間ずっと、ただ大きな身体にしがみつくことしかできなかった。