第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「でも、ロシナンテは違った。一緒にいるととても温かい」
「まるで“太陽”のように、か?」
「太陽・・・うん、そうだった」
床に敷いた布団の上にうつ伏せになりながら、人魚は尾ヒレをパタパタと揺らした。
“太陽の光は不思議だよなァ。同じ光なのに、ランプの光と違ってポカポカと温かい”
まさにそのような人だった。
一緒に居ると温かくて、眩しくて。
心が強くなれるような気がした。
「・・・起き上がれるか、下絵ができたぞ」
背中をくすぐっていた細筆が止まり、ホリヨシの腕がクレイオの身体を抱き起した。
背中に押された奴隷の証を消すために刺青を彫ると決めてから、クレイオはある花の絵を上から描いて欲しいとホリヨシに頼んだ。
それは見た事もない花だったが、彼女にとっては何よりも大事な花。
「私の故郷、ワノ国に伝わる文字ではこの花のことを“向日葵”と書く。太陽に向かって咲く花、という意味だ」
ホリヨシの幼い娘から手渡された手鏡を持って、背中の絵柄がよく見えるよう壁に立てかけた姿見に合わせる。
「とても力強く美しい花だ。太陽のような男を慕い、ひたむきに待ち続けるお前に相応しい」
クレイオの背中には無数のヒマワリ。
それらはまだ輪郭だけながら、大輪の花を咲かせていた。
「・・・綺麗・・・」
これで色が入れば、烙印など最初から無かったかのように消えてしまうだろう。
焼きゴテの傷痕に色を刺す、それは優れた技術を誇る彫り師にとっても簡単なことではなかったが、ホリヨシの顔に迷いはなかった。
「それでは、まずはスジから彫る。骨が軋むほどの痛みだ覚悟しろ」
「大丈夫、慣れてる」
ロシナンテが救ってくれるまで、私の世界は“痛み”だけしかなかったのだから。
クレイオは静かに微笑み、これから長い時間耐えなければならない恐怖心と痛みを静かに迎え入れようとしていた。