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【ONE PIECE】ひとつなぎの物語

第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)









シャボンディ諸島の外れにある、小さな家。
そこにひっそりと住むサムライは、遥かなる故郷に伝わる刺青の技術を受け継ぎし者。

「それがお前の初めて笑った時か」

ホリヨシと名乗った男は、細筆を動かしながら微かに笑みを浮かべた。
彼が筆を走らせるのは和紙ではない。
滑らかな人魚の背中。

刺青の下絵を背に描いていたホリヨシは、先ほどからずっと彼女の覚悟に繋がる思い出話に耳を傾けていた。

「私はそんなに笑ったつもりはないのだけど・・・ロシナンテはそれから何度もその時のことを話していた・・・嬉しそうに」


不思議なことに、ロシナンテの渾身のギャグは何一つ面白くなかったのに、彼が素でドジっている姿はとても面白かった。
熱い紅茶にびっくりして吹き出したり、ライターの火が洋服に引火したり、何もないところで仰向けにひっくり返ったり。
名のある海兵とは思えないそのそそっかしさに、見ていると自然と笑みが零れた。


“お、また笑ったな、クレイオ! これもおれの作戦だ!”


普通は笑われたら気分を害するものだろう。
しかし、ロシナンテはクレイオが笑っているのを見ると、舌を火傷しても、洋服が丸焦げになっても、後頭部に大きなコブを作っても、嬉しそうに顔を輝かせていた。


「とても優しい男だな」


そう言ったホリヨシに、クレイオは懐かしそうに瞳を揺らす。


「うん、とても優しい人・・・誰かが笑っていれば自分も笑顔になり、誰かが泣いていれば自分も涙を流す。彼のおかげで、人間にもたくさんの表情があることを知った」


それまで知っていた人間の“表情”とは、強欲な顔か、蔑む顔。
そこに優しさは欠片も無かった。








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