第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
ドジった・・・
自分は悪魔の実の能力者。
海水に触れれば全身の力が抜けてしまうことぐらい分かっていたはずなのに、なんで水槽の中に手を突っ込んでしまったんだ・・・
ゴボボボボ・・・
息が苦しい。
必死でもがこうにも、首から下の神経がプッツリと切れてしまったように手足が動かない。
深さ6メートルもある巨大な水槽だ、泳ぎの下手な人間だったら能力者でなくとも溺れてしまう。
ダメだ、このままじゃ・・・
死。
情けなくも、その一文字が脳裏をよぎったその瞬間だった。
「大丈夫・・・」
透き通るような優しい声がロシナンテの耳をくすぐる。
同時に、それまでパニック状態になっていた頭が、スーッと落ち着きを取り戻していった。
「私が支えているから・・・怖がらないで」
ロシナンテの背中に回る、細い二本の腕。
人魚は自分よりも遥かに大きな大男を抱えながら、水面まで浮き上がった。
「ぶはっ!!! ゲホッ・・・ゲホッ・・・」
顔が外に出た瞬間、口だけでなく鼻からも水を出しながら咳き込むロシナンテを見つめるクレイオは、少し驚いたような目をしていた。
「貴方・・・もしかして泳げないの?」
「あ、ああ・・・ゲホッ・・・おれは・・・悪魔の実の能力者だから・・・ゲホッ」
「悪魔の実・・・?」
「そう・・・だから、海水に浸かると全身の力が抜けちゃうんだ・・・」
ヘロヘロになりながらクレイオにもたれかかるロシナンテは、どこからどうみても情けない。
よく分からない一発芸を披露している姿もお世辞にもカッコイイとは言えなかったが、今はさらに輪をかけてカッコ悪かった。
だが、それがクレイオの“何か”を変えたのかもしれない。