第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
どれだけ時間がかかっても、クレイオに感情を取り戻させる。
腹を括ってからというもの、ロシナンテはあらゆる方法でクレイオを笑顔にさせようとした。
まずは海兵の間で“テッパン”となっているセンゴクとガープのモノマネ。
しかし、元ネタとなっている人物を知らないクレイオは、ただキョトンとしていただけだった。
お次に、足の指で持った目薬を目にさすという一発芸を見せてみたが、やはりこちらも反応無し。
捨て身の戦法とばかりに海水パンツ一丁になり、“穿いているけれど全裸に見えるポーズ”をやってみたこともあった。
だが、もともと洋服を着ていないのが当たり前の人魚にとって、それのいったいどこが面白いのか分かるはずもない。
さすがにネタも尽き、ロシナンテは離れの外の石段に腰掛けながら煙草を吸って気持ちを落ち着かせていた。
「おれは本当に・・・いったい、何をやってるんだ・・・」
魚人類と人間のギャグセンスは違うのかもしれない。
何か魚に関するジョークを考えた方がいいか?
そもそも、果たしてこれがセンゴクの望んでいることなのだろうか。
「はァ・・・魚人ジョークっていったい何だ?」
腹を抱えて爆笑するほどのネタ・・・
「あー!! 思い浮かばん!!」
こうなったらとっておきの、“おれの影響で出る音は全て消えるの術”を披露するか?
「いやいや、あの術を見せても“わー、ロシナンテすごーい!!”って喜ばせるだけだよな。爆笑まではいかねェ・・・けど、喜んでもらえるならいいのか?」
頭をガシガシと掻きながら二本目の煙草を箱から取り出そうとした、その時だった。
「ロシナンテ中佐」
抑揚のないその声に、ロシナンテの表情が変わる。
あからさまに溜息を吐くと、草のない所に煙草を捨て、靴のかかとで踏みつぶした。
「なんですか・・・?」
顔を見なくても、声をかけてきた相手が初日にロシナンテを離れまで案内した執事だということは分かっていた。