第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
朝日を浴び鱗を七色に輝かせている人魚を見て、ロシナンテは胸が締め付けられる思いがしていた。
自分の任務は、クレイオに涙を流させること。
だけど目の前にいる人魚は、涙どころか笑顔すら失い、どのような言葉をかけてもただジッとロシナンテの顔を見るだけだ。
そこに何かの感情があるわけではない。
「さァ、クレイオ! 飯だぞー!」
一日に二度、クレイオは食事を取る。
そんな当たり前の事にも、最初は感動してしまった。
メニューはいつも決まって海藻とハマグリのみ。
厨房で用意してもらったものを水槽まで運び、脇に取り付けてあるハシゴをよじ登って、食事が入った皿をゆっくりと水に浮かべる。
すると人魚はスーッと水面まで上がってきて、茹でた海藻と焼きハマグリを口に運ぶ。
その様が何とも可愛らしくて、ロシナンテはついついそばでジッと見入ってしまうこともあった。
「・・・・・・・・・・・・」
「ご、ごめんごめん。見られていたら食いにくいよなッ・・・うわ!!」
居心地悪そうに眉をしかめたクレイオに、慌ててハシゴを降りようとしたせいで段を踏み外してそのまま床に転げ落ちてしまう。
ドシンと仰向けに倒れているロシナンテを見て、クレイオは少し驚いたように瞳を丸くした。
「は、ははは・・・ドジだな、おれ」
我ながら情けない。
というか、いったい何をやっているんだろう。
自分は海軍の佐官だ。
本当ならグランドラインを荒らす海賊達を捕らえて、平和を守らなければならないのに、人魚のお守りをしている。
だけど・・・
「おれのことは気にせず、飯を食っててくれ! 腹がすいたら元気出ねェからな!」
天竜人の事情などどうでもいいが、センゴクから指名を受けたからにはこの任務を遂行しなければならない。
それに今、自分がこの人魚のそばを離れたら、彼女は酷い拷問に遭い続けるだけだ。
誰かを守ることが海兵の務めならば、この人魚の少女を守ることだって立派な仕事。
ロシナンテは自分にそう言い聞かせながら、水槽からジッと見つめてくるクレイオに笑顔を向けた。