第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「そこまでして、何故泣かせる必要があるんだ・・・!!」
「それはロシナンテ中佐には関係のないこと。もちろん、詮索も無用」
執事はこちらを見ている人魚に冷ややかな目を向けた。
「この“魚”には、ほとほと手を焼いているんですよ。だから趣向を変えようと海軍にお願いをしたのです。貴方がたも海賊や罪人を捕らえるため、いろいろな“手段”をお持ちでしょうから」
「おれ達は罪のない人達に拷問などしない!」
思わず声を荒げたロシナンテだったが、執事は驚く様子もない。
むしろ、“短気な男だ”とでも言いたげに冷笑している。
「とにかく・・・大将センゴクのご推薦ですから、貴方にこの件は一任します」
「ちょっと待て、話はまだ終わってない!」
「終わっていないも何も、これ以上話す必要がありません。クレイオを泣かせることに成功したら、すぐ我々に報告してください」
執事はロシナンテに鍵の束を渡した。
ここから先の管理を任せるということか。
「言っておきますが、クレイオは背中に烙印を押された時も、仲間を目の前で殺された時も泣く気配すら見せなかった」
悲しき人魚の背中には、大きな天竜人の紋章。
焼きゴテを押し当てられた時は、気を失うほどの激痛だっただろう。
「あの人魚には、心そのものが無いんです」
心が無いのはあんたらの方じゃないか!
ロシナンテは喉までその言葉が出かかったが、センゴクの顔を見た瞬間、何も言えなくなってしまう。
「ロシナンテ・・・」
センゴクは、我が子のように可愛がってきた海兵に申し訳なさそうな目を向けていた。
「すまない。お前にしか頼めんと思ったのだ・・・私に免じて引き受けて欲しい」
「センゴクさん・・・」
海軍大将である前に、父親代わり。
そんな大事な人の頼みを断れるわけがない。
「・・・分かりました・・・」
ロシナンテは込み上げる怒りを押し殺し、唇を噛みしめながら頷くことしかできなかった。