第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「人魚はとても気難しい性格です。ここへ連れてこられてから、一切の感情を表に出さなくなりました」
「・・・・・・・・・」
「天竜人はそれをとても気にしておられます」
ロシナンテは眉をひそめながら、執事が持つ大きな鍵の束を見た。
こんなに厳重に閉じ込められているから感情を出さなくなったのだろう。
いくら大切にされているとはいえ、故郷から遠く離れて寂しい想いをしているはずだ。
「私共が貴方にお願いしたいのは、人魚に感情を取り戻させること。手段はお任せします」
ガチャンと最後の錠が外れた。
それと同時に観音開きの扉がゆっくりと開く。
「要するに・・・人魚を笑顔にすればいいということですね?」
そう言ったロシナンテに、執事は薄く笑いながら首を横に振った。
「笑顔? 違いますよ」
ふわりと潮の香りが漂う。
その先にあるのは、天井まで届こうかという大きな水槽。
「言葉で罵ってもいいし、殺さない程度なら暴力を使っても構いません」
天井の明かりに照らされた海藻、ゆらゆらと昇っていく気泡。
安らかな海を模した水槽に佇むのは、神秘の種族。
「───どんな手段を用いてでも、クレイオに涙を流させてください」
一匹の美しい人魚が、母親の胎内で眠る赤子のように蹲っていた。