第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
天竜人の屋敷は、ロシナンテの想像をはるかに超える豪華さだった。
このレッドラインの山頂にどうやって運んだのか想像もつかないが、真っ白な大理石でできた門をくぐると、豊かな水を吹き出している噴水の周りには色とりどりの花。
「こちらです」
ロシナンテはてっきり正面の屋敷にいくものとばかり思っていたが、執事が向かったのはその横にある離れだった。
「離れ・・・ですか?」
「当然でしょう。高尚なる天竜人が、“魚類”なんかと同じ館に住むとでも?」
「魚類・・・?」
吐き捨てるように言った執事にロシナンテは戸惑い、センゴクは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「センゴクさんは何も説明をなさっていないようですが、ロシナンテ中佐にはある人魚の世話をしていただきます」
「に、人魚?!」
“特別護衛官”とはそういうことだったのか。
しかし、人魚の世話とは・・・海軍の仕事の一環とはとても思えない。
ベビーシッターと勘違いしているのではないだろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
執事が重い扉を開けると、ここは山の上なのにどこからともなく海の匂いがした。
おそらく、人魚のために海水を引き上げているのだろう。
しかし、館の中は暗く、息が詰まりそうなほど空気が重い。
「どうぞ、中へ」
執事に続いて入ると、すぐに二階へ続く階段があった。
ざっと見たところ、一階の奥にはダイニングがあり、風呂場やトイレもありそうだ。
赤い絨毯が敷き詰められた階段を上ると、二階には部屋が二つ。
一つには外から錠がかけられ、もう一つはロシナンテが使用するためのものか、開け放されたドアから新しいシーツがかけられたベッドが見える。
執事は鍵がかけられている方のドアの前で口を開いた。
「先に断っておきますが、中にいるのは我が主がとても大切にしている人魚」
「・・・・・・・・・・・・」
「くれぐれもこの離れから出さないように。それだけは厳守してください」
「・・・分かりました」
それにしても、何者かの侵入を恐れているのか、それとも人魚の脱走を恐れているのか。
ドアには複数の重厚な錠がかけられていた。
その一つ目の錠を開けたところで執事がロシナンテを振り返る。