第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
センゴクとロシナンテがマリージョアに着いたのは、その日の夕方。
黒いスーツを着た天竜人の執事が、“レッドライン”の頂にある聖地の入り口でセンゴクとロシナンテを出迎えた。
「ご苦労様です、センゴクさん」
「わざわざ出迎えなどせんでも良かったのに」
「そうはいきません。我が主の命でもあります」
年の頃は30か、少し上だろう。
きっちりと襟足がそろえられた黒髪を七三に分け、もう日が落ちているというのにサングラスをかけている。
執事はセンゴクの後ろにいるロシナンテをチラリと見ると、細く整えられた眉の片方を上げた。
「そちらがセンゴクさんご推薦の、ドンキホーテ・ロシナンテ中佐ですか」
「は、はあ」
神経質な性格なのか、執事はロシナンテのクセ毛頭を見て眉をしかめている。
このような冴えない男に天竜人の特別護衛が務まるのか、とでも言いたげだ。
「安心しろ、ロシナンテは優秀な海兵だ」
空気を読んだセンゴクの言葉に、それまで値踏みするような視線をロシナンテに向けていた執事が肩をすくめた。
「では、お屋敷までご案内いたします」
「あの、おれは住み込みで天竜人の護衛をすればいいのでしょうか?」
「護衛? そのような名目でロシナンテ中佐をここに連れてきたのですか、センゴクさん」
「ああ、まあどうでもいいだろ。細かいことは!」
センゴクはごまかすように笑っていた。
護衛ではないとしたら、いったい何故ここに連れてこられたのだろう。
ロシナンテはますます分からなくなったが、ここまで来てしまってはセンゴクと執事のあとを着いていく他にない。