第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「おー! 来たか、ロシナンテ」
聖地マリージョアへ行く準備を整え、海軍大将の部屋のドアをノックすると、センゴクが上機嫌な顔でロシナンテを出迎えた。
「センゴクさん・・・」
「準備はいいか? 今日は私も一緒に行くから安心しろ」
「・・・・・・・・・・・・」
“仏のセンゴク”と呼ばれているだけあって、大抵はニコやかにしている大将。
しかし、ロシナンテが浮かない顔をしていることに気が付くと、困ったように溜息を吐いた。
「辞令が不服か、ロシナンテ」
「い、いや、そんなことは!」
「顔に思いっきり“不服”と書いてあるぞ」
「!!」
焦りながら両手で顔をゴシゴシと拭いているロシナンテに、センゴクは声を上げて笑った。
ドジだが、バカ正直で優しいところは昔から変わらない。
───だからこそ、この男を“選んだ”。
「安心しろ。この任務は、場合によっては一日で終わる」
「い、一日?!」
「しかし、一カ月・・・いや、それ以上かかることもあり得る」
「どういうことですか?」
センゴク自身、五老星からの命令を受けた時は耳を疑った。
同時に、“適任者”はロシナンテしかいない、と思った。
「わっはっは、まあそう不安そうな顔をするな。まずは茶でも飲め!」
「セ、センゴクさん!!」
いや・・・違う。
ロシナンテが“適さない”ことは、誰よりもセンゴクが知っている。
「・・・ガープが置いてった煎餅もあるぞ」
この任務を果たすには、ロシナンテは優しすぎる。
「センゴクさん?」
「何でもない」
我ながら非情な辞令だと思う。
だが、他の誰にも頼めないことだった。
この手で育てた心優しき海兵、ロシナンテを除いて。
「大丈夫だ、すぐにマリンフォードへ戻ってこられるさ」
センゴクは湯呑に茶を注いでいるロシナンテに気づかれないよう、苦しそうに瞳を揺らしていた。