第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
海兵となって五年目の春。
異例のスピードで中佐にまで昇進した21歳のロシナンテは、突然届いた大将センゴクからの辞令に戸惑っていた。
「お前、また何かドジったんだよ」
「そ、そうなのかな」
天竜人の護衛官とは、“昇格”なのかそれとも“降格”なのか。
もともと出世には無頓着なロシナンテだが、海軍本部を離れなければならないこの辞令に動揺を隠せなかった。
同期の海兵達はロシナンテの辞令を勝手に覗き込み、ドジな彼がセンゴクを怒らせたと冗談交じりに言っている。
「天竜人の護衛なんて、ただの“お守り”と変わらないぜ。我儘を聞いて、ご機嫌取りしなきゃならない」
「でも、“特別護衛官”とあるのが気になるよな。まァ、センゴク大将から説明があるよ」
「ああ・・・」
ロシナンテは溜息を小さく吐き、窓からマリンフォードの空を見上げた。
8歳の時に出会い、父親代わりといっても過言ではないセンゴク。
その彼が何故、ロシナンテにこのような辞令を出したのだろうか。
「おれは期待に応えられなかったのかな」
“身寄りがないのか”
兄ドフラミンゴに父を殺され、ピーピーと泣くことしかできなかった子ども。
そんな自分をセンゴクは海軍に連れて帰り、立派な海兵に育ててくれた。
「正義」の二文字を背負って、この海の秩序を守る。
センゴクの背中を追ってずっと頑張ってきたのに、事もあろうに天竜人の護衛に就けとは・・・
センゴクはロシナンテの過去を知っている。
体格に恵まれ、戦闘能力が高いだけでなく、悪魔の実の能力者。
だからこその抜擢なのかもしれないが、海軍本部から離れることはロシナンテにとって不本意だった。