第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「もし私を信じ、どのような痛みにも耐えると言うならば・・・」
男は静かにクレイオを見つめた。
その眼差しはまるで、磨かれた名刀のように鋭く厳か。
「お前のその覚悟・・・背中に刻んでやろう」
人魚は彼の言葉の意味が分からず、首を傾げた。
すると男は背筋を伸ばし、軽く頭を下げて目礼をする。
その所作はグランドラインでは珍しいものだった。
「私・・・いや、“拙者”はホリヨシと申す」
ホリヨシとは、ワノ国の伝統技術を継いだ者。
故郷を捨てて十余年。
男は娘にすら隠していた名を名乗り、侍としてクレイオの前に立っていた。
「和彫の技術を極めた拙者ならば、お前の背中に絵を彫り、烙印など最初から無かったようにすることができる」
ホリヨシと名乗った途端、男の口調はガラリと変わっていた。
それは鎖国国家であるワノ国特有の話し方なのだが、クレイオがそれを知る由もない。
「絵を彫るって・・・どういうこと?」
「刺青を知らぬか?」
ホリヨシはおもむろに着ていたシャツを脱いだ。
細いながらもしっかりと筋肉のついたその身体を見た瞬間、クレイオの息が止まる。
鬼、雷神、霊獣、蛇・・・
色鮮やかな絵が皮膚を埋め尽くさんばかりに描かれていた。
美しいというよりも、圧巻。
「針を使って皮膚に色を刺していく。一生消えぬものだが、その烙印を埋めることができる」
「・・・・・・・・・・・・」
もちろん、刺青は相当の痛みが伴う。
一生消えない傷痕を身体に残す、それだけの覚悟がなければ施すことはできない。
クレイオは鮮やかな文様が描かれたホリヨシの腕をマジマジと見ていた。
どれくらいそうしていただろう。
ふと口を開く。
「───どんな絵でも・・・描けるの?」
「どのような絵でも。お前にとって想い入れの強いものが良い」
母なる海に関係した何かか。
それとも、大切な思い出が残る風景でも良いだろう。
「それじゃあ・・・」
クレイオは肩越しに背中を見下ろしながら、小さく微笑んだ。