第1章 始まりと終わりの町(シャンクス)
溢れんばかりの膨大な書物が押し込められた、造りつけの本棚。
この部屋は、壁の代わりに本棚で屋根を支えているのではないかと錯覚してしまうほど、まっさらな壁が見当たらない。
まるで勝手知ったる家のように、ノックもせずに部屋のドアを開けたシャンクスは、花瓶に花を活けていたこの部屋の主に向かって大きな笑みを見せた。
「クレイオ!」
海軍本部すらも一目置く大海賊とは思えぬほどの、無邪気な笑顔。
クレイオは、シャンクスの髪の色に似た真っ赤なハイビスカスを一撫ですると、その大きな瞳を揺らした。
「シャンクス・・・」
「“変わって”ねェな、クレイオ」
シャンクスの目に映るクレイオは、最後に会ったその日から何一つ変わっていなかった。
考古学の聖地オハラにあったとされる、「全知の樹」のように世界中の本で埋め尽くされた、大きな屋敷。
ここにある本を全て読みきるには、人生を2度やり直さなければならないだろう。
それほどの量の本に囲まれ、世界から“取り残された”かのようにひっそりと生きている姿も、変わらない。
しかしクレイオは、黒いマントを肩掛けにし、白いシャツの襟元から日に焼けた鎖骨をのぞかせているシャンクスを見て眉をひそめた。