第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「国民はみんな、ドフィを祝福している・・・10年前までは誰がこの国を守っていたのかも忘れて・・・」
でも、それも今日で終わり。
私はドンキホーテファミリーの“殺し屋ヴァイオレット”。
貴方を殺し、ドフラミンゴを討って、“ヴィオラ王女”に戻るわ。
震えながらそう思っていることに、クレイオは気づいていない。
代わりに、ゆっくりと口を開いた。
「・・・忘れてはいないと思う」
熱鉄の涙“目鯨”で一思いに殺してしまおうとしていた手が止まる。
「みんな・・・考えないようにしているだけよ。思い出したらきっと・・・心が潰されてしまうことを知っているから」
その言葉はヴァイオレットに強い衝撃を与えた。
クレイオはこれまでずっと、文字通り“人形”のようにドフラミンゴの言いなりになっているだけだった。
心などなく、ドレスローザのことも気にも留めず、生きる屍のように王宮で暮らしているものとばかり思っていた、それなのに・・・
貴方の瞳にも・・・ドレスローザの人々はちゃんと映っていたの・・・?
そして何よりもヴァイオレットを驚かせたこと。
それは、クレイオが故郷マリージョアを見たいと願ったことだった。
「ヴァイオレットを見ていると、特に私の姉を思い出すの」
ヴァイオレットにもかつてスカーレットという姉がいた。
ディアマンテに殺されてしまったが、彼女と姪のレベッカを想う気持ちは今も変わらない。
そんなヴァイオレットにとって、クレイオの言葉はあまりにも自分と重なり、もはや彼女を殺すことができなくなっていた。
「本当にごめんなさい・・・」
何度も謝り、クレイオの身体を抱きしめずにはいられない。
自分のことばかり考えて、貴方を殺そうとした私をどうか許して・・・
800年間、戦争のないことを誇りとしていた平和を愛するドレスローザなのに、誰かに血を流させてまで取り戻そうとしていた私が間違っていた。
クレイオ、お父様・・・
本当にごめんなさい・・・
ヴァイオレットの記憶はそこでプツリと途切れる。
もはやクレイオに見せるべき光景はもうないのだろう。
「クレイオ・・・」
ゆっくりとヴァイオレットの手が離れたクレイオの目からは、涙が零れ落ちていた。