第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
ヴァイオレットの持つ「ギロギロの実」の能力は、大きく分けて三つ。
視界を飛ばし、八方4000キロを見ることのできる“千里眼”。
物体や人体の骨格だけでなく、心さえも覗き見ることができる“透視”。
物理的な攻撃を与えることができる“涙”。
あらゆる嘘を見破り、敵の行動を事前に把握することのできるヴァイオレットの能力に、ドフラミンゴは心底惚れ込んでいる。
そして、ヴァイオレットにはもう一つ、特別な力があった。
「───おれを誘惑しているつもりか?」
国王が座る玉座にあぐらをかいているドフラミンゴが、こちらを見て二ヤリと笑う。
今よりも少し長い短髪をしていることから、おそらく五年前の彼だろう。
しかし、その会話はクレイオには記憶のないものだった。
「自分の誘いを断る男などいない・・・そう己惚れているようだな」
薄ら笑いを浮かべながらこちらを見ているドフラミンゴ。
その顔を見た瞬間、クレイオの脳に直接、震える声が響いてきた。
やらなければ・・・
お父様、そしてドレスローザの人達を救うために───
この声の主はもちろんクレイオではない。
今、クレイオは自分の目を通してヴァイオレットの記憶の中の光景を見ていた。
「・・・それが“己惚れ”かどうかは、貴方が証明して」
パサリと床に落ちた衣服は、ヴァイオレットが好んで着ている、すみれ色の踊り子衣装。
ドフラミンゴは頬杖をつきながら目の前の裸婦を見つめていたが、ふいに口元から笑みを消した。
ドクンッと、クレイオとヴァイオレットの心臓が同時に大きく鼓動を打つ。
明らかにドフラミンゴのヴァイオレットを見る目つきが変わっていた。
「己惚れる女は嫌いじゃねェが、何かを企む女は虫唾が走る」
リク王を殺さないことを条件に、ドンキホーテファミリーに入ったヴァイオレット。
これまで一度もファミリーを裏切るような行為はしていないが、同時に心を許してもいない。
そのことは、ドフラミンゴの警戒心を強めるのに十分だった。