第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「貴方はどこを見たいの、クレイオ。私の能力が及ぶ範囲なら、代わりに見てあげるわ」
クレイオは一瞬迷ったのか、少しだけ言いずらそうにしながら口を開く。
「───マリージョア・・・」
それは予想もしていなかった場所だったのか、ヴァイオレットは目を丸くした。
「マリージョア・・・? 貴方が生まれた場所を?」
「そこに私の大切な姉妹がいる。今も彼女達が生きているか・・・知りたい」
自分と同じようにして生まれた、美しい奴隷達。
10年前、たまたま自分は天竜人の船に乗ったから、こうして“下界”で生きていられるが、彼女達はきっと今もマリージョアで天竜人の性玩具として生きているはず。
天竜人の美しさの基準を満たし続けていられたら、の話だが・・・
「ヴァイオレットを見ていると、特に私の姉を思い出すの」
少女時代はNo.56と呼ばれていた、クレイオに愛情を教えてくれた人。
黒髪、大きな瞳、赤い唇がヴァイオレットに良く似ていた。
“できるだけ・・・No.217やみんなと一緒にいたい・・・”
そう言っていた彼女は無事だろうか。
もう二度と会えないだろう姉を想い瞳を伏せていると、細い二本の腕がクレイオを包んだ。
「ごめんなさい、クレイオ。私の力ではマリージョアを見ることはできない」
大切な人の無事が確認できない恐ろしさは、ヴァイオレットにもよく分かる。
同時に、現実を知ってしまうことの恐ろしさも。
「本当にごめんなさい・・・」
クレイオに繰り返し謝ったのは、願いを叶えてあげられなかったからだけだろうか。
「ヴァイオレット・・・?」
全てを見通すことができ、この王宮で起こるあらゆる出来事を知っているヴァイオレットは、美しい顔に悲痛の色を浮かべながらクレイオを抱きしめていた。