第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「王の台地」の上に佇む、ヴァイオレットとクレイオ。
一人は踊り子、一人は公妾。
男を狂わせるほどの美貌を持つ彼女達には、一つの“共通点”があった。
「貴方は不思議ね、クレイオ」
春風に髪を靡かせながら、ヴァイオレットは微笑んだ。
「10年もドフィのそばにいるのに、貴方は決してファミリーに染まらない」
「・・・・・・・・・・・・」
「それなのに王女はファミリーに染まっていると知ったら、国民はきっと蔑むでしょうね・・・」
父の命を守るためとはいえ、ドンキホーテファミリーの殺し屋に成り下がった自分を。
彼らの記憶には、国民を傷つけた国王と、国民を捨てて逃げた王女の姿しかないだろう。
「・・・言葉を返すようだけど、貴方もファミリーに染まっているようには見えない」
「え・・・?」
「私にはヴァイオレットの“眼”に何が映っているのか分からないけれど・・・ドフラミンゴには言えないようなことも視えているんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・」
眉根を寄せながら押し黙ったヴァイオレットに、クレイオは先ほど彼女が見せた笑顔と同じように微笑んだ。
「私はね、ヴァイオレットがちょっとだけ羨ましい。もし貴方と同じ“眼”があったら、どうしても見たい場所がある」
もうそこに行くことはできないと思うから・・・
「でもね、同時に怖いのよ。そこに大切な人が“いなかったら”と思うと・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ヴァイオレットは何でも見えてしまう力を持って・・・怖くないの?」
するとヴァイオレットは静かに瞳を閉じ、艶やかな唇に笑みを浮かべる。
「怖い・・・でも、見えないのはもっと怖いものよ」
この力のおかげで、ドフラミンゴに知られずにリク王の様子を確認することができる。
“おもちゃの兵隊”がトンタッタ族とともに現国王を討とうとしていることも。
リク王を信じる存在が“見える”こと、それがヴァイオレットの孤独を慰める、唯一の救いだった。