第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
ドレスローザに連れてこられてから、10度目の春。
頂上戦争から2年が経った今も、ドフラミンゴは王下七武海としてその悪名を轟かせている。
白ひげの死によって迎えた、一つの時代の終焉。
海軍本部が新世界に移転してもなお、多くの島の秩序は乱れ、ドフラミンゴの言う“新時代”のうねりが容赦なく力のない海賊達を飲み込んでいた。
だけど、ここドレスローザは違う。
白ひげの後ろ盾を失った島々が海賊に荒されようが、
海軍の最高戦力の二人が人知れず決闘していようが、
どこ吹く風とばかりに、相も変わらず美しい花々が咲き誇り、芳しい料理の香りと、情熱的なタンゴの音色が島を彩る。
そして・・・
クレイオは今も変わらず、ドレスローザに囚われた鳥として生きていた。
「今夜、ドフィの帰還10周年を記念した、大きなお祭りが開かれるそうよ」
王宮が建つ「王の台地」から街を見下ろしていたクレイオに、ヴァイオレットが後ろから声をかける。
美しい黒髪が印象的なその女性は、かつての王女ヴィオラ。
「国民はみんな、ドフィを祝福している・・・10年前までは誰がこの国を守っていたのかも忘れて・・・」
父リク王のことを想っているのだろう。
ヴァイオレットは大きな瞳を曇らせながら、祭りに向けて花が飾られている家並を見つめた。
透視や千里眼を可能にさせる“ギロギロの実”を食べた彼女には、クレイオが認識できる以上のものが見えているのだろう。
それは時に、“見たくはないもの”まで・・・
「・・・忘れてはいないと思う」
「クレイオ?」
「みんな・・・考えないようにしているだけよ」
10年前の夜、いったい何があったのか。
街が何故燃えたのか。
人が何故消えたのか。
みんな、考えるのが怖いのだろう。
「思い出したらきっと・・・心が潰されてしまうことを知っているから」
シュガーはリク王をオモチャに変えなかった。
それは、国民から彼に関する記憶が消えていないことを意味する。