第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「貴方は本当に“破戒の申し子”のような人ね」
貴方という狭い世界の中でしか生きることができない私には、どのように時代が変わってもその空で翼を広げることができないだろう。
「世界が壊れていくのを楽しんでいる」
するとドフラミンゴはクレイオの方を向き、口元から笑みを消した。
「まるで世界が壊れて欲しくねェような言い草だな。お前にとっちゃ何の価値もねェものだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「奴隷として人工的に生まれ、一切の愛情を知らずに育ったお前が、この世界にいったい何の未練がある?」
一切の愛情を知らずに・・・?
それは違う。
私も愛情は知っている。
でも、それを口にすることができない。
「“破戒の申し子”・・・ロシナンテがおれに言った最期の言葉だが、それを否定するつもりはない」
悪魔のような笑みを浮かべながらクレイオの頬を撫で、親指で唇をなぞる。
弟がもし、クレイオと出会っていたら、彼はどのような行動を取っただろうか。
“もう放っておいてやれ!!! あいつは自由だ!!!”
自分の命をかけて、ローを生き延びさせたロシナンテ。
それから間もなく、天竜人の船に乗っていたクレイオを初めて見たドフラミンゴは、その美しさよりもまず、彼女の瞳に目を奪われた。
容姿端麗ながら、“自由”という言葉の意味すら知らない絶望的な瞳。
そんな彼女を見たら、ロシナンテは黙っていられなかっただろう。
何としてもクレイオに笑顔を教え、自由を教え、心を与えようとしただろう。
今や“笑顔”の髑髏を掲げているローにそうしてやったように。
「フッフッフッ・・・お前“も”破壊によってのみ、満たされる」
「・・・・・・ドフラミンゴ・・・」
「天竜人の欲望という、この世界でもっとも汚ェものから生まれたお前に、この世界への愛情などないはずだ」
だから見せたい。
この世界でもっとも美しいものを。
「楽しみにしていろ、一つの時代が壊れていく様をな・・・」
下弦の月を背に、クレイオを抱きしめながら笑うドフラミンゴ。
2年後、その頂上戦争によって生まれた“新たな時代”に敗北することになることを、この時の彼はまだ知らなかった。