第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
トラファルガー・ローがその存在を海軍に認識されてから数カ月。
いつしか彼はユースタス・キッドやモンキー・D・ルフィと並んで、“最悪の世代”と呼ばれる億超えルーキーとなっていた。
「わーかー」
ドフラミンゴを探すシュガーの声がガランとした宮殿に響く。
「わーかー、どーこ?」
いたるところに色とりどりの花が咲くドレスローザは昼間も美しいが、さらに魅力を増すのは太陽が落ちてから。
酒場から情熱的なタンゴのメロディーが月夜に響き、踊り子達の翻すドレスが真紅のバラのように花開く。
しかし、普段は酒に酔ったドンキホーテファミリーの声で賑やかな王宮が、今宵ばかりは静かだった。
それは今、世界が人知れず大きく変わろうとしているからだろうか。
「ねー、クレイオ。若を知らない?」
「ドフラミンゴ?」
シュガーはバルコニーで本を読んでいた王の妾に駆け寄った。
風呂上がりなのだろうか、クレイオは濡れた髪を一つにまとめ、果物とハーブを一緒に漬けておいた水を飲んでいる。
「こんな夜にドフラミンゴに何か用?」
「んー、海軍から手紙が届いたから渡して来いってトレーボルに言われた」
「海軍から・・・?」
七武海であるドフラミンゴには、定期的に海軍から連絡が来る。
しかし、手紙を送ってくるとは、いつもと様子がおかしい。
「ねー、クレイオから若に渡しておいてよ。私、デリンジャー達とゲームしていたところなの」
「・・・分かった」
シュガーから手渡された書簡には、海軍のマークが押された封蝋。
この物々しさは、何か重要な内容が書かれているからに違いない。
クレイオはバルコニーから夜空を見上げた。
そこに浮かぶ月は針のように細い。
「・・・下弦の月・・・」
悪魔の笑みのようなその月に、何か胸騒ぎのようなものを感じていた。