第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「その涙・・・なんの為に流している?」
ドフラミンゴの親指がクレイオの瞳から零れる透明の涙を拭う。
愛情などないはずなのに、どうしてその指先はそんなにも優しいのか。
「そうだ、お前に渡してェものがある」
ドフラミンゴは思い出したように、ズボンの後ろポケットからブレスレットを取り出した。
優雅なホワイトゴールドのチェーンに、大粒のダイヤモンドをあしらったそれは、見るからに高価なもの。
「右手を出せ」
言う通りに手を差し出すと、ドフラミンゴは楽しそうに笑いながらクレイオの手首にブレスレットをはめた。
「フッフッフッ、やはり似合うな」
「・・・これはどうしたの?」
「おれの部下に両替商をやっている奴がいる。物の価値を知らねェバカな海賊どもが、珍しいお宝をそうと知らずに金に換えるため持ってくるのさ」
ドフラミンゴの名を借りて両替商を営む女は若いが、その目は本物。
こうして滅多に見られない宝石やアクセサリーが手に入ると、必ずボスに報告してくる。
「貴方はもう私に十分すぎるほどのアクセサリーをくれた・・・これはいったいいつまで続くの・・・?」
「それはおれが聞きてェことだ」
言っただろう。
お前を世界一の女にするのは、このおれだと。
お前はあれだけの宝石に囲まれながら、嬉しそうな顔ひとつしねェ。
だが同時に、お前は分かっている。
受け取らなければ、この宝石たちは別の女のところに行くかもしれないということを。
興味の失せた玩具ほど疎ましいものはないからな。
「お前はいったい、いつになったらおれに心を開く?」
その涙の訳すら明かさず、お前はいつも心をおれから隠そうとする。
「・・・おかしな人・・・オモチャに心なんてあるわけないのに・・・」
すると、ドフラミンゴの額に青筋が浮かんだ。
「そうか・・・なら、これから何をされても文句は言わねェな?」
最も腹立たしいのは、心を隠されれば隠されるほど、クレイオという玩具への興味が強まっていくこと。
ドフラミンゴは細い手首で揺れるブレスレットを見て笑みを浮かべると、組み敷いているクレイオの洋服のボタンを乱暴に外していった。