第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
命には限りがある。
だから美しいのだと、人は言う。
「クレイオ、口を開けろ」
生まれてからずっと、美しくあることだけを求められてきた。
そんな私の顔や容姿は、ただ造られたに過ぎない。
美しい子どもを生ませるためだけに、この世界のどこかからマリージョアへ連れてこられた父と母。
愛し合ってもいないのに妊娠するまで性行為を強いられた二人は、きっと深い悲しみに暮れていたに違いない。
「どうして舌を絡めてこない? 怒っているのか・・・? それとも怯えているのか・・・?」
私を産み落とした母は、ほんの一瞬でも私を見て何を思ったのだろう。
「ドフラミンゴ、私は・・・」
私は決して美しくはない。
カゴの中の鳥は、確かに羽は綺麗かもしれない。
でも私には、恐怖を乗り越えて大空を自由に飛びまわる鳥の、汚れて傷ついた羽の方がずっと美しく思える。
「・・・クレイオ」
自分の意志で生きる。
そんな当たり前のことが、私はできないでいる。
自分の意志など無く、生き方すら知らないでいる。
こんな私が美しいわけがない。
「何故、泣いている・・・?」
そんなに自分の生を呪うなら、自ら命を絶ってしまえばいいと人は言うだろう。
でも・・・
「・・・・・・・・・・・・」
本当に消えてしまいたいと願う時。
ドフラミンゴからもらった真珠のネックレスを見つめていると、不思議な声が聞こえてくるような気がするの。
君がもし海の魔物に襲われたら、私は津波よりも早く駆け付けて君を助けよう。
君がもし海の上で道標を失ったら、私は千の泡になって君の行く道を指し示そう。
愛する君よ、どうか忘れないで。
どこの海にいても、私の愛は君とともにあることを。
それはとても優しくて・・・とても儚い声で・・・
誰かを心から想っているその純粋な愛情が、私に“命と心を大事にしなさい”と訴えてくるようで・・・
もしかしたら、この真珠にはドフラミンゴが言う価値以上の“何か”が込められているのかもしれない。
そう思ったら、自分で命を絶つことがどうしてもできなくなっていた。