第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「安心しろ、クレイオ。おれは一人にはならない」
「・・・どういうこと?」
戸惑うクレイオを抱きかかえながら立ち上がると、ベッドの上に放り投げる。
その衝撃で身体が大きく弾んだ途端、アロマキャンドルの炎が強く揺れた。
「ドフラ・・・ミンゴ・・・?」
「お前は“まだ”美しい」
恐怖する顔を撫でながら、その身体に跨るドフラミンゴ。
部屋に充満するローズの香りが、悪魔をさらに高揚させていく。
「こういうのはどうだ? おれが永遠の命を手に入れたら、お前をDr.ベガパンクのところへ連れていく」
Dr.ベガパンクとは世界最大の頭脳を持ち、その科学力は人類がこれから500年かけて到達する域とされている、政府の天才科学者。
「内臓を全て取り出し、永遠に動き続ける機械を詰め込む・・・皮膚や髪も老化しないよう人工のものに取り換え、サイボーグにしてもらおう」
神に背く“人間兵器”すら生み出す彼ならばそれが可能だ。
「そしてお前は本物の“玩具”となって、おれのそばにいればいい」
───永遠に。
「・・・・・・・・・・・・・」
なんと恐ろしく・・・そして非情な男なのだろう。
彼にとってクレイオは人間ではない。
ただの人形なのだ。
「ドフラミンゴ・・・」
だけど、分かる。
狂気でしかない彼が、“家族”に向けるその想いだけは何よりも純粋なことを。
自分を裏切ったロシナンテ、オペオペの実を食べて失踪したロー。
かつては彼らを本当に大事に思っていたのだろう。
だからこそ、彼らの存在は暗い闇となって、今もドフラミンゴの心の奥底で燻っている。
「早くローに会えるといいわね・・・」
もし、私をサイボーグにするのなら、一つだけお願いがある。
「私の顔がシワだらけになる前に・・・」
どうか、脳だけは全て取り除いて。
何も考えることがないように。
何も感じることがないように。
長い睫毛に縁どられた目を閉じて呟いたクレイオ。
彼女を見つめるドフラミンゴの口元からは笑みが消えていた。