第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「フフフフ・・・愚問だな」
「・・・!!」
「いいか。この世界には“絶対”なんてものは存在しねェ」
頭蓋骨が軋むほどの握力で顔を掴まれ、クレイオは思わず喘いだ。
「あいつらはいつか死ぬ。それはどうしようもねェことだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前のこの美しい顔も、あと数年すればたるみ、シワができ、無残なものになるだろう」
細胞が老いれば、人は衰える。
衰えは全てを奪う。
美しさも、力も、夢さえも。
どんなに絶対的な存在だとしても、老いの前には無力に同じ。
「天竜人という地位も・・・家族も・・・金も・・・権力も・・・“絶対”ではなかった」
“元天竜人だ、殺しても海軍は動かねェ!!”
“殺すな・・・・・・!! ずっと生かして苦しめろ!!!”
天竜人から人間に堕ちて知った、憎悪。
天竜人に復讐しようとした下々民ども。
そいつらに必ず復讐すると固く誓った瞬間から、彼の心は破壊に染まった。
「おれはファミリーを信じているが、あいつらを“絶対的な存在”とは思っていない」
「・・・・・・・・・・・・」
「それが死かもしれねェし、裏切りかもしれねェ。自然の摂理にしろ、そうでないにしろ、いずれ別れはくる」
「そう言い切る貴方が・・・どうして絶対的な命を求めるの?」
するとドフラミンゴの口元が緩む。
「おれが“神”の血を引く人間だからだ」
その言葉に、全身の血の気が引いていく感覚を覚えた。
ドフラミンゴの言う“神”とは、天竜人達が自身を形容するそれとは違うように聞こえる。
───貴方は・・・この世界を壊したあとで、人間を超えた存在になろうとしているの・・・?
「どうした、クレイオ・・・何故、怯えた顔をしている?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
この人が怖い。
そして同時に・・・
可哀想だと思った。
「終わりがあるからこそ、耐えられることもあるのに・・・」
“死”によって・・・
どのような苦しみからも解放される。
どのような罪も許される。
だけど、自然の摂理に逆らい、苦しみや罪とともに生きていく・・・そんな地獄に、貴方は耐えられるの?
「一人で生きていくということが・・・怖くないの・・・?」
するとドフラミンゴは高らかに笑った。