第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「ドフラミンゴ・・・入るわよ」
王の寝室のドアをノックしてから開けると、カーテンが閉め切られた部屋は真っ暗だった。
1週間も主が不在だったというのに、どことなくアロマキャンドルの甘い香りがするのは、ベビー5が殺虫剤代わりに灯していたからだろう。
しかし、その香りと一緒に漂っているのは、鳥肌が立つような殺気だった。
「ドフラミンゴ、いるんでしょ?」
本当なら、今すぐにでもここから逃げ出したい。
恐怖をなんとか押えながら、大きな音を出して刺激しないように後ろ手にドアを閉める。
部屋の中央に置かれた巨大なベッドには誰もいない。
だんだんと暗闇に慣れてきた目を凝らすと、部屋の隅にあるリクライニングチェアーに大きな身体が沈んでいるのが見えた。
「ドフラミンゴ、明かりをつけてもいい? 貴方の顔が見えない」
「・・・好きにしろ」
その声が思っていたより落ち着いていることに安堵しながら、クレイオはテーブルの上に置いたままとなっていたアロマキャンドルに火をつけた。
ゆらゆらとした明かりが、数メートル先で長い脚をオットマンに乗せているドフラミンゴを照らし出す。
ふわりと妖艶なローズの香りが二人を包み込んだ。
「───白い町・・・」
ポツリとそう呟いた声は、とても低く。
まるで鉛のように重く、鈍く、クレイオの鼓膜を震わせる。
ふと視線を落とすと、テーブルの上には一冊の本が置いてあった。
少し黄ばんだその表紙には、“白い町・FLEVANCE”の文字。
「フレバンス・・・?」
クレイオが本のタイトルを口にすると、ドフラミンゴの座っている椅子がキーッと音をたてる。
「もう14年近く前になるか・・・その町で育ったという一人のガキがおれの前に現れた」
低く掠れた声はとても静かだった。
それが余計にクレイオの恐怖心を煽る。
このような声を出す時のドフラミンゴは、人を殺すことを厭わない。