第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「そう焦るな。たとえローがおれから逃げ回っていたとしても、それは問題じゃねェ」
「ドフィ、そりゃどういう意味だ?」
「フッフッフッフッ・・・」
その瞬間、楽しげに笑うドフラミンゴから邪悪な覇気が漂い始める。
トラファルガー・ロー。
死んではいないと思っていたが、まさか海賊になったとは。
せっかく我が弟コラソンに命を救ってもらったんだ、時代の底に隠れて生き長らえていればよかったものを・・・
「ローは必ず、おれの目の前に現れる」
ドンキホーテファミリーの一員としてか、それとも“敵”としてか。
今は分からないが・・・
「あいつが海賊である以上、どの道を選んだとしても必ずおれの所に辿り着く」
名声を欲したか?
力を欲したか?
それとも・・・
ワンピースを狙っているのか?
「海賊として高みを目指すなら、王下七武海との対峙は避けて通れねェからな」
ローが目指す先には、必ずドフラミンゴがいる。
ならば、こちらはただ待っていればいい。
可愛い弟分が、成長していく様を見守るのも一興だろう。
「フッフッフッ、楽しみだ・・・」
抑えきれないドフラミンゴの覇気に、幹部達の顔色が変わる。
テーブルの上の手配書はその強すぎる力に圧倒されたのか、小刻みに震えていた。
「わーかー!」
部屋に戻っていくドフラミンゴを無邪気に追いかけようとしたシュガーの手を、クレイオが掴んで止める。
「ダメよ、シュガー」
「どうして? 放してよ、クレイオ」
ドフラミンゴに遊んでもらいたいシュガーは、頬を膨らませながらクレイオを睨んだ。
「今、ドフラミンゴに近づいたら危険だから」
「・・・?」
クレイオは冷たい汗を額に浮かべながら、王宮の中へ入っていく国王の背中を見つめた。
表情は笑っていたけれど、その心の中は真逆だろう。
───このままでは誰かが殺される。
ふと視線を感じて顔を上げると、グラディウスが自分を見ながら“行け”と顎で指図した。
今、ドフラミンゴが何を必要としているのか、彼も分かっているようだ。
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオは小さく深呼吸すると、テーブルの上にあるトラファルガー・ローの手配書をちらりと目の端で捉えてから、ドフラミンゴの後を追った。