第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「聞くが、お前は“自由”という言葉の意味を知っているか?」
「自由・・・?」
「例えば・・・大空を飛んでいる鳥と、鳥カゴの中に囚われている鳥、どちらが幸せだと思う?」
その質問にクレイオは眉根を寄せた。
翼を持って生まれた以上、鳥は空を飛んでいた方が幸せに決まっている。
そんな決まりきったことを何故、聞くのだろう。
クレイオの考えていることを悟ったのか、ドフラミンゴの口の端が上がった。
「いいか、自由というのは最も恐ろしいものだ」
「恐ろしい・・・? なぜ・・・?」
「自分の羽で空を飛んだ瞬間、そいつは周りにあらゆる敵がいることを知る。他の動物に捕食されるかもしれねェ、人間の娯楽のために銃で撃たれるかもしれねェ・・・もしかしたら、雷がその羽を貫くかもしれねェ・・・」
自由になった途端、自分の身に起きること全てに責任が生まれる。
下した決断が死に繋がったとしても、それを誰かのせいにすることはできない。
だから、弱い人間は自由を恐れる。
安全な鳥カゴの中で、餌を貰い、天敵の存在を知らずにいた方が幸せとさえ思うだろう。
「さっきおれが、空を飛んでいる気分はどうだと聞いたら、お前は“怖い”と答えた」
本当に自由な人間は、死すらも恐れない。
何故なら、“死”こそが人間にとって最大の牢獄なのだから。
「お前の恐怖は当然だ。空こそが“自由”の象徴だからな」
ドフラミンゴは躊躇なく太陽を直視し、高らかに笑った。
「───上を見ろ、クレイオ」
どこまでも限りなく広がる、空の青。
海の真ん中で浮かぶ岩礁に座っていると、そのまま吸い込まれてしまいそうだ。
「どうだ、美しい空だろう」
ドフラミンゴは不敵な笑みを浮かべていた。
「この美しい空が壊れていく様はもっと美しいぞ」
天竜人が造ったという世界。
海軍が守っているという秩序。
悪も、正義も、そんなものはいくらでも塗り替えられてきた。
勝者が正義であり、秩序は勝者の都合の良い形に過ぎない。